2015年02月01日

過去の対日テロ事件との比較から今後の対策を考える 〜イスラム過激派とオウム真理教を同種・同質集団と見たアメリカの現代感覚の良し悪しを踏まえて〜

目次
■日本人人質の殺害
■過去の対日テロ事件に対する欧米キリスト教諸国(特にアメリカ)の態度を振り返る
(「どれもイスラム過激派のテロ」という意識)
■三つの対日テロ事件の比較(地下鉄サリン事件、シガチョフ事件、ISIS日本人拘束事件)
■海外産・日本産テロリズムの双方に警戒しなければならない点は変わらない
■参考文献・サイト


■日本人人質の殺害

 ついに後藤健二氏までもがISISに殺害されたと思われる動画が今朝、YouTubeにアップロードされた。政府も、殺害されたのが後藤氏本人で、これまでの動画と同様、合成・細工などはないとしている。

 新鮮な感想が衰えないうちに、今回の一連の日本人拘束事件について頭にあることを書きたい。

◆取り上げるテロ事件
(1) 地下鉄サリン事件(1995年3月20日)
(2) シガチョフ事件(2000年3月〜2001年7月13日)
(3) ISIS日本人拘束事件(2014年8月〜2015年2月)

 今回のテロ犯罪も、我々個々人の日常生活にとっては遠い出来事ではあるし、事件をあまり重く深くはとらえない人も多いようである。氏名も顔写真も出さずに無責任な書き込みができるTwitterや掲示板では、日本人二名の拘束動画をコラージュした画像・動画がアップロードされたり、直接ISIS戦闘員のアカウントに書き込みがなされたりし、ISISから反応があったりなど、実際に非政府レベル、SNS・サブカルチャーレベルでISISを刺激していたことも大変に印象に残った。

 早速、YouTubeが規約違反として淡々と削除してきた今までのISISの斬首動画を転載しアーカイブを作成しているカルト宗教・テロリズム関連ウォッチングサイトで、斬首動画の一部始終を見たところ、やはり斬首実行者は、これまで同様「ジハーディー・ジョン」のようである。(一方で、実行者は別にいて、「ジハーディー・ジョン」は映像でのコメントと斬首のフリのみの担当であるという説も飛び交っている。それ以上の詳細は不明。)

kenji-goto1.jpg ISISによるジェームズ・フォーリー氏殺害以降、同じ日本人として上記のような揶揄・コラージュ文化に対しても嫌な思いをしていたので、それをかき消すような意識で、自分の目で「ジハードのジョン」による斬首動画を全て見てきたが、ナイフを首に当てられる直前に、後藤氏が覚悟を決めたように自ら目を瞑って準備していたのが、かえって後藤氏の生前の活動の積極性を暗示させられるようであった。
(右は後藤健二氏の生前のTwitterでの言葉。)

 などと感じていたところ、早速、時事通信が「ほとんど身じろぎしない。首にナイフが当てられると覚悟を決めたように目を閉じた。」と報道していた。「動画における個人の一挙一動の情による解釈」に触れるのは、こうして個人のブログでの感想にとどめたほうがよいのではないか、権威あるマスコミにおいて述べても大丈夫なのだろうか、と少し心配になった。

 これまで日本はテロの標的になりにくかったからか、「やはり自分たちは無宗教の日本人でよかった」という人も多くいるし、私だって内心そう思うのだが、最大のムスリム人口を抱えつつ過激派が少ないインドネシアでさえ、無宗教は禁止されており、無宗教を名乗ると、運が悪ければ政府当局に密告されて逮捕されることもある。ムスリムにとって、アッラーフという存在がどういうものか、まずは比較的過激派の少ない(または、まだ影をひそめている)イスラム国家から勉強するのがよいのかもしれない。

 すでに後藤氏の件に関して、「もっと多くのジャップ(Jap)が後藤氏のような刺身になることを望む」と書き込んでいる親ISIS派の人たちや小グループも欧米圏に多数おり、彼らにとっては、「無宗教の日本人」は「1億人規模のアメリカ従属教というカルト宗教」という意識なのかもしれない。

 それにしても、動画が合成だ、いや合成でないとか、後藤氏の声だ、いや別人の声だ、後藤氏のまばたきがモールス符号になっている、いやなっていないなど、日本国民どうしで分析結果が最後まで真っ二つであったのは、いったい何だったのだろう。ISISのメディア部門「フルカーン」が、わざと「合成のように」作って撹乱し、それに我々日本人がまんまと引っかかったのだろうか。よく分からない。

 こういう動画は、「人類の悲惨な歴史の記録(アーカイブ)」としては、むしろネット上に残されなければならないと思う。「玉石混交」の情報社会の中で、徹底して「玉」を集める一方で国民に見せる「玉」と隠す「玉」とを選別せざるを得ない政府の行動と、「玉」も「石」もとりあえずネットワーク上に流しておくテロリズムウォッチャーの行動と、両方が五分五分に存在するのがよいと思う。


■過去の対日テロ事件に対する欧米キリスト教諸国(特にアメリカ)の態度を振り返る
(「どれもイスラム過激派のテロ」という意識)

 私は個人的には、今後も日本においては、ISISなどのイスラム過激派によるテロよりも、日本国内のカルト宗教・新宗教団体によるテロのほうが高確率で起きやすいと考えている。というより、ISISのようなイスラム過激派思想の影響をもろに受けやすい危険性を持っているのは、日本国内のムスリムであろうはずがなく、カルト宗教・新宗教団体、そして、ごく一般の一部の社会人・学生・大学教員などのほうだと考えている。

 そして、あくまでも個人的なカルト宗教・テロリズム事件ウォッチャーとしての見解にすぎないが、二人の日本人がISISに拘束された最初の動画を見て、なぜか私は、一見すると共通点のなさそうなシガチョフ事件(ロシア人によるテロ)、そしてその契機となった地下鉄サリン事件(日本人によるテロ)のことをふと考えた。

 しかし、よく思い出してみれば、これら二つの対日テロ事件は、多くの欧米のキリスト教諸国、特にアメリカが、当初アラブ・イスラム過激派テロリストの犯行と見ていた事件である。なるほど、「見誤ることがある欧米諸国の目」というつながりから、これら二つのテロ事件を思い出したのだ。欧米の報道各社にも、当初イスラム過激派の犯行と勘違いして報じたところがあった。

 そして何より、ISISの前身のアルカイダこそ、かつてアメリカが組織したムジャーヒディーン集団であるわけだが、アメリカ同時多発テロ事件をはじめとして、今やアメリカが最も扱いにくいテロ集団となってしまったようである。

 今回のISISによる日本人の拘束・殺害を一つの契機として、今後の対日テロ対策を冷静に(ある意味では冷徹に)考えていきたいと思うならば、「欧米諸国(の政府・報道機関)の目には、第一印象の段階では、イスラム過激派であろうが日本のカルト宗教であろうが、とにもかくにも“この種のテロ”が全く同種の“イスラム的な何か”として片付けられる蛮行と映る」ということは知っておいたほうが無難であろうし、やはり私としては、それが欧米、特にアメリカのキリスト教市民社会の功罪であるとも考えている。

 これは見方を変えれば、欧米諸国、そして欧米諸国に追随する中東やアフリカの親欧米政権の、「テロはテロで、どの宗教を標榜していても先進国の人権意識やキリスト教精神の敵であるから空爆する」という非常に分かりやすい態度が、他国で起きたテロの緻密な分析・選別、もっと言えば宗教学的・理念的な微妙な差異をすぐにとらえる嗅覚のようなものをあまり持たない、ということを意味しているように見える。

 もっとも、例えば、欧米諸国がロシア人が起こしたシガチョフ事件をイスラム過激派の仕業と見た理由も、無理に探そうとすれば、無くは無いと思う。現在のISISの戦闘員の内訳を見ても、アラブ人・ムスリムに次いで、ロシア人はチュニジア人と同じくらい多く、イギリスやフランスからの参加者数をしのいでいる。

 ISISに限らず、チェチェン紛争時代からずっと、イスラム過激派に占めるロシア人の割合は高い。イスラム過激派思想もオウム思想・シガチョフの思想もソ連崩壊後のロシア人の精神性に肯定的に響きやすかった共通点があるという意味では、欧米(あるいは旧西側・NATO側)諸国の目にはなかなか区別は付きにくいのかもしれない。

 ともかく、おそらく今述べたような「テロ=イスラム教そのものが内包する傾向・欠陥」と見てしまうようになった欧米諸国の一足飛びの態度は、今後の対日テロ分析に対しても適用される態度かもしれないわけだから、その点は日本人である以上、心しておいたほうがよいと思う。

 しかしやはり、そういったキリスト教精神を中軸とする先進国にオウム真理教のような日本産カルト宗教の思想を「イスラム教の影響を受けたテロ集団」と間違えて片付けられてもらっては、一般のムスリムや日本人が困ることになる。特にアメリカにその傾向が強いのは、かつて自らが組織しておきながら手に負えなくなったアルカイダを突き放して以来、他国の過激派の区別があまりつかなくなったからなのかもしれない。

 以下のように、欧米諸国がイスラム過激派と勘違いしたサリン事件とシガチョフ事件を起こしたオウム真理教は、「教義」上はイスラム教から最も遠いところから生まれているのである。そして、最終的に「同種・同質のテロ集団」となっただけで、今回挙げる三つのテロ事件は、「イスラム」とはもはや無関係の国際犯罪なのである。

 サリン事件の95年には、私はまだ小学六年生だったから、CNNなどが「アラブ・イスラム過激派の犯行」と報じたことはのちに様々な文献から知ったのみであるが、シガチョフ事件に関しては、アメリカ市民までもが誤解してネットでイスラム過激派を非難していながら、日本ではこの事件の存在そのものがほとんど放映されなかったことを覚えている。


■三つの対日テロ事件の比較(地下鉄サリン事件、シガチョフ事件、ISIS日本人拘束事件)

 さて、改めて三つの対日テロ事件を挙げてみよう。そのあとに、それぞれの共通点と相違点が分かりやすいように、事件の特徴を列挙した。

◆取り上げるテロ事件
(1) 地下鉄サリン事件(1995年3月20日)
(2) シガチョフ事件(2000年3月〜2001年7月13日)
(3) ISIS日本人拘束事件(2014年8月〜2015年2月)

●報道各社の第一報
(1) アラブ原理主義・イスラム過激派の犯行
(日本の公安当局がオウム真理教の犯行と見たのちも、欧米諸国、特にアメリカではイスラムの犯行と報道。)
(2) アラブ原理主義・イスラム過激派の犯行
(日本の公安当局がロシアのオウムの残党の犯行と見たのちも、欧米諸国、特にアメリカではイスラムの犯行と報道。当時は、直前に第二次インティファーダ、アルカイダによる米艦コール襲撃事件などが発生。直後にアメリカ同時多発テロ事件が発生。)
(3) アラブ原理主義・イスラム過激派の犯行
(今回は、首謀組織が積極的にサイト・YouTube・Twitterなどで声明・動画を公開。日本や欧米諸国に残された行動は、その動画などの真偽や合成の有無の分析であって、従来のような「テロ=イスラム教そのものが内包する傾向・欠陥」という態度による間違いは起こり得なかったと思われる。)

【参考】
 ちなみに、キリスト教原理主義者の青年によるノルウェー連続テロ事件においても、当初欧米諸国の多くは、便乗したイスラム過激派によるネット上のニセの犯行声明を見破ることができず、「イスラム過激派のテロの可能性」を報道。

●事件におけるインターネットの使用(事件時点でのインターネット情勢)
(1) 未使用。当日まで秘密裏のテロ計画。
(Windows 95の発売直前。ネットは未成熟だが、事件前の94年に日本の首相官邸がウェブサイトを初めて開設。その他の政府機関もサイトを次々と開設。教団が首相・閣僚などの動きを精査。)
(2) 使用。麻原死刑囚の思想を実現しない場合のハルマゲドン・全人類の滅亡の訪れと、日本人大量殺戮・日本破壊計画の構想をインターネット上で記述。
(GoogleもYouTubeもなかった時期で、ほとんどの日本国民は当事件の事前の知識が皆無。)
(3) 使用。メディア部門「フルカーン」および複数のウェブサイト・Twitterアカウントを有して日本人人質の殺害を警告し、YouTubeに犯行声明・殺害動画をアップロード。

(使用しているSNS・動画サイトや携帯型端末そのものは、一般の日本国民と全く同じ。)

●事件の結果(見逃した機関当局、阻止した機関当局)
(1) 既遂。阻止できず。
(2) 未遂。見逃し:東京入国管理局、警視庁、福岡県警 阻止:FSB(ロシア連邦保安庁)
(3) 既遂。阻止できず。

●首謀組織(首謀者・実行犯)
(1) オウム真理教
(首謀者:麻原彰晃、指揮・サリン製造・サリン散布・運転・運搬等の各省庁長官・幹部をはじめとする実行犯十数名)
(2) オウム真理教のロシア人信者
(首謀者:ドミトリー・シガチョフ、他ボリス・トゥペイコら幹部4名、協力者十数名)
(3) ISIS(ISIL、イスラム国、DAIISH)
(首謀者:アブー・バクル・アル=バグダーディー、他「ジハードのジョン」ら実行犯数不明)

●首謀組織の統治体制・国家転覆計画
(1) 国家を標榜し、省庁制を採用。ハルマゲドン(の捏造)。
 「日本シャンバラ化」を計画(日本国の打倒、東京都民・国民の大量殺戮、天皇・首相・議員の殺害、新聞社への襲撃、オウム国家の建設)
(2) 「日本シャンバラ化計画」の再興。ハルマゲドン(の捏造)。麻原彰晃の奪還。
(3) 国家を標榜し、行政・司法・警察機関などを設置。中東・トルコ・アフリカ・イベリア・ウイグルに至る統一カリフ・イスラム国家の建設。

●「殺人」の隠語(原典には以下のような過激な意味はない。)
(1) ポア、救済、精進(全て「殺人」そのものと曲解)
(2) 同上
(3) ジハード、キサース(「殺人」や「レイプ」と曲解)、ディーヤ(「欧米が支払うべき血の賠償金」と曲解)

●被害者
(1) 死者13人、負傷者6000人以上
(2) 未遂
(3) 死者2人(全世界の死者・負傷者数は不明)

●思想的支柱・原理(自称)
(1) チベット密教、原始仏教、ヨーガを中心とし、儒教、道教、ゾロアスター教、キリスト教を混在させた「真理」の追求
(2) 同上
(3) イスラム教スンニ派、サラフィー・ジハード主義

●組織の規模、国籍、兵力
(1) 1万人以上(日本人。東京大学・早稲田大学など一流大学出身の有能者、医師、科学者、弁護士などが幹部・省庁大臣に就任。出家・在家信者に分かれる。)
(2) ロシア人信者3万人以上(日本国内の信者の数倍)、教祖に忠誠を誓うテログループが複数存在し、うち一つがシガチョフのグループ
(3) 戦闘員1万人〜3万人?(支配下にある住民は1000万人?)、アラブ人・パレスチナ人・ロシア人・チュニジア人・エジプト人・欧米人・ウイグル人(民族)・中国人(漢民族)・日本人などが参加

●女性・女児の扱い
(1) ハーレムを形成(ダーキニー)、新規入信女性の選別によるダーキニー登用
(3) 性奴隷として誘拐、現世におけるフーリー(「天女」ハーレム)の養成・強制的性労働


■海外産・日本産テロリズムの双方に警戒しなければならない点は変わらない

 こうして見てくると、今後、日本として対日テロを阻止していくために重要なことは、「何の情報分析もしていないのに、組織の構成・行動・統治体制・国家志向などが似ているからという理由だけでとりあえずイスラム教関連のしわざにしておく、という態度を日本は持っていない」ということを、世界に、特に空爆の主導者アメリカ、そして今回日本政府が頼ったヨルダンなどの空爆国に対し、徹底的に発言していくことなのかもしれない。

 そもそも防ぐべきものは、イスラム教との交流でさえなく、海外産テロリズムまたは日本産テロリズム(日本人によるホームグロウン・テロリズム)なのであるから、日本国内の一般のムスリムよりも、仏教カルトや神道カルト、一部の社会人・学生などのほうがISISの思想の影響を受ける可能性があると見るのが妥当ではないだろうか。

 ISISのテロと全く同様に、これらをも阻止する態度を明確にし、法整備を進めていかなければならない。

 私は普段、政治的立場がお互いに全く異なる場所に出入りすることもあり、むしろ観察していて日本人による同士討ちテロの不安のほうを身近に感じることが多いのだが、それもあって今回のようなブログ記事を即日書いておいた。


■引用元サイト

後藤健二(@kenjigotoip) Twitter
https://twitter.com/kenjigotoip(2010年12月2日の記事)

■参考文献・サイト

Jihadi John(ジハードのジョン)
http://en.wikipedia.org/wiki/Jihadi_John

“FALSE PROPHET: THE AUM CULT OF TERROR” crimelibrary.com
http://www.crimelibrary.com/terrorists_spies/terrorists/prophet/1.html

オウム真理教対策(警察庁)
https://www.npa.go.jp/archive/keibi/syouten/syouten269/sec03/sec03_04.htm

オウム真理教(公安調査庁)
http://www.moj.go.jp/psia/ITH/organizations/ES_E-asia_oce/aum.html

破壊活動防止法(昭和二十七年七月二十一日法律第二百四十号)
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S27/S27HO240.html

「イスラム国」と過激派の実像(時事ドットコム)
http://www.jiji.com/jc/isk
「身じろぎせず覚悟の表情=後藤さんとみられる男性」(時事ドットコム、2015年2月1日)など
http://www.jiji.com/jc/isk?g=isk&k=2015020100030

「後藤さん殺害か 祈るように目閉じる」(日刊スポーツ、2015年2月1日)
http://www.nikkansports.com/general/news/1428900.html
posted by 岩崎純一 at 22:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会論・宗教論
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