2015年05月21日

大阪都構想の蹉跌(高齢者と若者、南北格差、出自による差別問題、女性の「橋下キライ票」など)

目次
■序
■(1) 賛否両陣営の得票数と棄権・無効票
■(2) 支持政党別の対立軸の信憑性
(橋下大阪市長・大阪維新の会・維新の党・官邸・政府の支持層と、自民党大阪府連・公明党・民主党・共産党の支持層との対立)
■(3) 高齢者(高投票率)と若年者(低投票率)の対立軸の信憑性
(実は、今回に限れば(2)(4)(5)に比べて二次的な要素)
■(4) 大阪市北部と南部の対立軸の信憑性
(一部のマスメディアにとっては、「誤った部落民に対する正しい部落民の勝利」として理解される。川崎市の簡易宿泊所の火災と共通する日本社会の闇。)
■(5) 男性と女性の対立軸の信憑性
(女性による「橋下キライ票」の威力。実は、(3)(4)よりも結果に影響した。)
■結
【画像出典】



■序

 大阪都構想は、今回の住民投票で大阪市民自身の意志によって蹉跌をきたすこととなったわけだが、投票結果について、以下のようないくつかの対立軸による分析が出ていることが大変に興味深い。

 私個人は、政治論や都市論としては都構想に賛成であったが、それはある種の「都市美学」的な観点からのもので、「二重行政の無駄」は橋下市長が強調するほどは存在しないだろうと思っているし、都構想が実現すれば各区による税収格差が生じてしまう現実についても素人なりに分かってはいた。

 このように、自分の考えは一東京都民としての勝手な遠吠えのようなものだったし(出身地も「関西文化圏」とは言えない岡山であるし)、結果的に以下の(1)〜(5)の現実を見せつけられたというのが正直なところだ。

 当然、事前の世論調査と投票当日の出口調査と投票後の集計結果とでは統計に差があるため(掲載しているグラフもこれらの統計が混在しているため)、この点に留意しつつ、(1)〜(5)それぞれの詳細を書いてみたい。


osakato-zentai.jpg■(1) 賛否両陣営の得票数と棄権・無効票

 まずは、都構想の賛否と棄権・無効票の割合について見ておく。三者とも拮抗している。


osakato-seito.jpg■(2) 支持政党別の対立軸の信憑性
(橋下大阪市長・大阪維新の会・維新の党・官邸・政府の支持層と、自民党大阪府連・公明党・民主党・共産党の支持層との対立)


 元より自民党支持者に大阪都構想支持者が多い傾向にはあったものの、基本的には維新以外の政党は、自民党大阪府連から共産党までが歩調を合わせて都構想に反対しており、憲法や安全保障のあり方が如実に問われる国政選挙とは全く異なった構図が見られた。

 憲法問題・安全保障問題については、橋下市長自身は政府・自民党保守派に近いにもかかわらず、都構想については、大阪市民は橋下氏に対してこれらとは異なる角度から評価か批判を投げかける結果となった。

 従って、安易に保守と革新の争いだったという言い回しさえ成立しない。ある意味では、都構想について最も党としての見解がまとまっていないのが自民党であると言える。

 結論としては、自民党支持層以外の大阪市民においては、都構想への賛否が比較的明確であったということになる。(2)の対立軸は、かなり大きな要素であったと言えるだろう。

 しかし、北朝鮮による日本人の拉致問題への対応と同じく、自民党内、あるいは自民党政府と自民党で意見が正反対というのはよくある話で、今回についても(2)の要素は驚くべきことではないかもしれない。


osakato-seibetsu-sedai.jpg■(3) 高齢者(高投票率)と若年者(低投票率)の対立軸の信憑性
(実は、今回に限れば(2)(4)(5)に比べて二次的な要素)


 都構想に反対する高齢世代によるいわゆる「シルバーデモクラシー」によって、都構想に賛成していた若者が敗北したとする論調は、辛坊治郎氏をはじめ、ニュースキャスターに多く見られる。

 ただし、20代のみと65歳以上、あるいは20代と敬老優待乗車証(敬老パス)の交付を受けられる70歳以上とを比べれば、それは成り立つものの、20代〜30代ないし40代までと65歳以上(あるいは70歳以上)とを比べれば、そもそも人口は逆転し、結局は「高齢者が高い投票率を誇り、若者の投票率が異常に低かったから」以外の理由はなくなる。

 高齢者が普通に投票に行き、若者が与えられた権利を行使しなかった結果がこれなのだから、こればかりは高齢化社会とはあまり関係がないようである。

 むろん、そうは言っても、敬老優待乗車証の有料化への不満といった極めて身近なトピックへの不満が高齢者の票を決める現実については、若者がどうもがいたところで仕方がなく、当然高齢者の動きは都構想の頓挫に貢献しただろう。

 とにもかくにも、本気で高齢世代の最期の勢いに対抗しようと思うのだったら、それ相応の行動力と知力が必要であり、若者の投票率が上昇し、なおかつそれなりに政治が語れるようでなければならないという現実が変わるわけではない。

 (3)の対立軸の存在は、半分半分か、思っているほどにはないといったところだろう。


osakato-ku.jpg■(4) 大阪市北部と南部の対立軸の信憑性
(一部のマスメディアにとっては、「誤った部落民に対する正しい部落民の勝利」として理解される。川崎市の簡易宿泊所の火災と共通する日本社会の闇。)


 新たに北区となる予定であった区では全区をあげて賛成多数であった一方で、南部および北部の周辺部では反対多数であった。これについては、様々な分析があるようだが、一つだけ、大阪市民に限らず我々国民が避けて通ることができない大きな問題が含まれている。

 私は、朝日新聞社に朝日新聞とは無関係の仕事で出入りすることが多い。

 2012年の『週刊朝日』と佐野眞一による連載「ハシシタ・奴の本性」をめぐる問題では、橋下大阪市長の出自が取り沙汰され、朝日新聞社・朝日新聞出版が(歯切れは悪かったものの)一応は謝罪したのだった。

 しかし、その後も同社には、大阪都構想に反対する大阪市民の貧困層による一連の運動について、「部落民に対する部落民の闘い」という言い回しをする社員は少なからずいた。非常に気分が悪かった。

 この言い回しはすなわち、「改憲論者であり、従軍慰安婦問題や在日米軍司令官に対する沖縄の風俗活用推奨についての発言を行うなどした、(同社にとっては不都合な、いわば道を誤った保守系の部落出身者たる)橋下市長に対し、橋下市政によって見捨てられるであろう(と同社が考える)被害者たる(あいりん地区などを含む)南部の日雇い労働者・貧困層・部落民と女性とが大量の反対票を投じる闘い」を期待するニュアンスを部落差別・女性差別に引きつけて言ったものである。

 そして、この朝日新聞や朝日新聞出版の希望的観測(橋下市長の敗北)は、この(4)として現実のものとなった。

 当然、それぞれの新聞社にはそれぞれの社風というものはあるが、しかし朝日新聞に限らず、多くのマスメディアにとってこの問題は根底に生き残ったままだ。まさに日本社会の闇である。それに、日雇い労働者と貧困層と部落民とが完全に重なるわけがないのに、一緒に扱うきらいも多くのマスメディアで見られる。

 マスメディアは、事前分析・結果予測は正しく精神が間違っている場合があるということがよく分かる。結果的に今回は、むしろ産経新聞のほうが、出口調査でも「賛成多数」の結果が出たと自信を持って盛んに報道していたが、分析も間違った。だから、余計に厄介なのだ。

「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」旨を定める日本国憲法第14条に対する新聞社・マスメディアの無理解については、個人的な寂しさももちろんあるが、ともかく、この問題は大阪においてとりわけ顕在化する問題であることは間違いないのである。

 橋下市長の出自のことはマスメディアが勝手に書いたが、大阪市に微妙な南北格差があることは大阪市民自身が投票行動によって示したこと自体が、大変な皮肉に思える。

 国立環境研究所の五味馨氏などのように、南北格差など存在しないと主張する論者も存在するが、さすがにそれは大阪に残る問題を覆い隠してしまう気がするし、今現在も一部のマスメディアがどれほど橋下市長を「部落民の間違った成り上がり方」だと見て「正しい部落民と女性の力」によって打倒したがってきたかは、先に示した通りである。

 そもそも、橋下市長とて、都構想自体の良し悪しは別にして、南部地域を貶めようとして都構想を掲げたわけではないだろう。そのことだけは信じるし、この問題については新聞社をはじめとするマスメディアの責任が極めて大きいと思う。

 大阪市で住民投票が終わった日の未明には、神奈川県川崎市で簡易宿泊所二棟が燃える火災が発生した。川崎市も、全国的に見れば、もし同じような住民投票が行われたなら、各区で投票結果が異なることが予想される市である。

 少なくとも自分は、そんないざこざから超然として、身分や出自が何であれ、死者を心から悼むということに徹する人間でありたいと思う。

 ともかく、(4)の対立軸の存在は、投票結果においては予想していたより目立たなかったが、気にすべき人にとっては最も気にすべき対立軸であるということがよく分かった。


osakato-seibetsu-sedai.jpg■(5) 男性と女性の対立軸の信憑性
(女性による「橋下キライ票」の威力。実は、(3)(4)よりも結果に影響した。)


 今一度、(3)で挙げたグラフを載せておく。

 実際のところ、この(5)こそが最も(事前の世論調査、投票当日の出口調査、投票後の集計結果の全てにおいて)有意な対立軸・意識格差を示した要素であった。おそらく、夫婦どうし、パートナーどうしで都構想の賛否が分かれたケースがかなりあったのではないかと思う。

 むろん、以前の世論調査の段階から男女差が顕著ではあったが(男性は都構想賛成、女性は反対がそれぞれ上回っていたが)、従軍慰安婦問題や在日米軍司令官に対する沖縄の風俗活用推奨についての発言以降は、20代の女性の支持の落ち込みが激しくなった。

 結果的に、反対に回った20代女性の票が再び丸ごとひっくり返るだけでいくつかの区で賛成多数となっていた可能性がある、という皮肉な結果になってしまった。

 私も、最も大きな対立軸・格差要因は、当然のごとく(3)や(4)であると考えていたから、やや驚いた。しかし、結論から言えば、橋下市長という男が、それだけ女性にとって好き嫌いの分かれる男だったということに尽きるのかもしれない。

 むろん、大阪市の20代女性たちがここ数年で突然、同世代の女性の都構想についての見解を気にして統計情報を追ってみたり、都構想のデメリット研究に目覚めたりして、集団で反対票を投じた、などということはあり得ない。

 そうではなくて、個々の女性が「生理的嫌悪感」からそれぞれの投票行動をとったところ、結果的にこうなったとしか言いようがないのだろう。

 しかし、「生理的嫌悪感」と言っても、最近の若い女性が(4)のようなことにこだわって男性を見ることはあまり考えられないから、やはり「生理的嫌悪感」は橋下市長の出自などではなく言動に対するものだと見てよいのだろう。(4)のようなことにこだわるのは、やはり年配の女性のほうだろう。

 ただし、スマホでネットを見て回ったり、ネタ的・週刊誌的な記事にいち早く辿り着けるのも若い女性や主婦なら、それを大まじめに鵜呑みにしてしまう心をまだ持っているのも、また若い女性や主婦であると思う。

 橋下市長が飛田新地の顧問弁護士をしていたとか、橋下市長自身がよく風俗に通っていたとかいった記事をよく知っているのも、若い女性・主婦のほうだ。多くの高齢者女性は、そんな情報にさえ出会わないか、出会ったとしても、「昔はよくあったこと」として「生理的嫌悪感」にまでは至らないのだろう。その意味では、橋下氏は年配女性からの徹底抗戦は受けずに済んだといったところなのだろう。

「わたしは、大阪都構想ってよく分からないけど、とにかく橋下徹という男が生理的にキライです」。

 おそらくはこれこそが大阪市の20代女性の論理なのであり、投票権を行使できる以上、当然そういう論理もあってよいわけだ。そういった「橋下キライ票」に高度な政治判断がないことを不満として、スーツ姿の男性が若い女性を嘆き、もがいたところで、それもまた民主主義ではなくなる。

 しかし、社会人として、「なぜ反対なのか」と問われたなら、若い女性も当然、反対理由(「生理的に嫌いな男性だから」)をそのまま堂々と答えられなければならない。「わたしは都構想のデメリットを政治論理的に理解し、一票に賭けたから」といった嘘はダメである。それは、投票権者として当然の責任だと思う。

 そして、沖縄どころか、全国の風俗店で、強制的にではなく自主的に働く20代女性も、そしてそれを買う男性も、また大勢いるわけである。

 ともかく、この(5)は、今回の都構想否決の最も有意な根拠となってしまった。そして同時に、マスメディアが最も取り上げない話題でもある。


■結

 今回の大阪都構想の是非を問う住民投票は、大変に勉強になるものではあったが、日本と大阪の様々な闇が見える機会でもあった。


【画像出典】
●大阪都構想(Wikipwdia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E9%98%AA%E9%83%BD%E6%A7%8B%E6%83%B3
●出口調査 支持政党別(2015年5月17日、JNN NEWS)
●【大阪都構想】都構想 20代女性、調査のたび「賛成」低下…男性は「賛否」拮抗(2015年5月11日、産経新聞)
http://www.sankei.com/west/photos/150511/wst1505110012-p1.html
●大阪都構想賛否、地域差くっきり 幻の北区は一丸で賛成(2015年5月18日、朝日新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150518-00000030-asahi-pol
posted by 岩崎純一 at 21:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会論・宗教論
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